子育て世代との関わり方を考えるーーこどもみらい探求社共同代表 小笠原舞さん<U school vol.4後編>


「多世代コミュニティを考える」をテーマに、小規模多機能ホームを運営する「ぐるんとびー駒寄」代表の菅原健介さんと、子育てに関する本質的な事業を展開する「合同会社こどもみらい探求社」共同代表の小笠原舞さんをお招きし、第四回目となるU schoolが開催されました。

お年寄りとの暮らしのあり方を提案してくださった菅原さんのお話(レポートはこちら)に続き、今回は、子育て世代との暮らしのあり方について、小笠原舞さんがご自身の活動を交えながらお話しくださった講演の内容をお伝えします。

今回のゲスト、小笠原舞さん

こどもみらい探求社を立ち上げた経緯

小笠原さん:私は学生時代に通信で保育士免許を取得後、一般企業に就職しました。社会人となった後、紆余曲得あって結局保育士として働くことに。はじめはアルバイトの立場で保育士をしていましたが、途中から新規保育園の初期メンバーとして参加し、そこで担任をして三年間勤めました。

現場で活動したことで、良い面も、課題も、普段ニュースでは報道されない状況を知りました。保育園をめぐるさまざまな問題を、自分で外に出て解決していきたいと考え退社。その後、「asobi基地」という子育てコミュニティを立ち上げたり、会社を作ったりと活動の幅を広げていくことになります。

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メディアでは、よく社会におけるいじめの問題が取り上げられますが、幼少期の子どもといると、もともと生まれた時には誰かをいじめようという意思があるわけではないことがわかります。当然、子ども同士の喧嘩はありますが、まだ言語能力が未発達な子たちでも、互いを思いやり、助け合っていく姿を見せてくれます。心の変化や環境の変化によって、何かしらのサインを出そうとする結果が、いじめなどの子どもたちの教育現場の問題として出てきているのだと思います。

誰もが思いやりをもった子どもだったはずなのに、成長して大人になると、さまざまな人間関係の難しさや特定の人を排除するといった問題が増えてきます。保育士という子どもに大きく影響する立場である私は、あるときから、幼児期の子どもたち、そしてその家族の将来に対して何ができるか、を考えるようになりました。私たち保育士がどんな環境を用意できるかで、子どもたちの未来、しいては日本の未来が変わっていくと思うようになったんです。

保育園で関わる子どもたちはみないつか卒園していってしまいますが、その子たちの個性がその後も大事にされ続けるだろうか、と疑問を感じるようにもなりました。保育園に対してだけではなく、広く社会に対して何かしたいなと思うようになったとき、小竹めぐみという保育士に出会って意気投合。彼女と共に「オトナノセナカ」という名の団体を立ち上げて共に活動するようになります。(現在「オトナノセナカ」はNPOとなり、小竹が代表となり活動をしています。)

活動を重ねるうちに、子どもを取り巻く環境をいろいろな企業が作り上げていることを知りました。企業と同じ土俵にあがり、ときには協働していかなければならないと考えるようになります。そして、会社を作るという決断をしました。「保育士×社会デザイン」というテーマを掲げ、保育士が園を飛びだして、それまでになかった仕事を「こどもみらい探求社」で始めることにしたんです。

中間的立場だからこそ果たせる役割

小笠原さん:「こどもみらい探求社」では、これまでの保育士経験で得てきた私たちの知見を生かして、企業や教育機関などとのコラボレーションを交えながら、今までにない領域へアプローチしています。事業は大きく分けると2つ。ひとつは幼児教育に関わる人材や組織、コミュニティの育成といった人的な環境づくり。もうひとつは、物的な環境づくり。以前より取り組んでいたイベント企画に加え、教育コンテンツや商品の開発、また、空間デザインといった取り組みです。

会社をはじめてみると、企業のいろいろなニーズがあることがわかり、保育園向けの販促ツールの制作や、シッターサービス立ち上げ時のサポートをしていました。また、数多く存在する保育園の情報をまとめて紹介するイベント企画をしたり、ある町からは資源を活用して、親子の移住を増やすためのアドバイスもしました。

私たちのミッションは、「子どものためのよりよい環境をつくっていくこと」ですから、当然一番のコミュニティである家庭にも関わっていくことが重要になります。そこで、親子に対するアプローチも重要な活動として行っています。たとえば、子育て研修の場として親子で参加する幼児教室の場を作っています。

この場は「おやこ親子保育園」という名前で運営しています。待機児童問題を保育園とは少し違う角度から支援出来るのではないかという発想の転換から生まれた活動です。親子で参加していただいて、日常の生活を学びの場に変えていくようなデザインの方法を、10回完結の講座で伝えています。

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たとえば、「こどもが主役の時間」をつくり、子どもがものと出会っていく様子を、親御さんに見守る練習をしていただく練習をしていただく時間があります。子どもたちが自分でものごとを発見していくことの楽しさを親御さんたちにお伝えしています。

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一方で「大人が主役の時間」も設けていて、親御さん同士が交流しながら子育てについて学び合う対話の時間を作っています。また、「おやこパートナー」という独自の制度を設け、会社員、弁護士やCA、学生など、自分の子どもがいない大人も参加できるようにしています。さまざまな人との出会えることは、子どもにとっても大人にとっても大切な環境です。出会いは、親にとってもありのままの自分でいて良い、と思えるきっかけになります。

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「おやこ保育園」をやっていてわかったことは、多くの親子が、コミュニティと場を求めているということです。そこで、実際に会わなくてもコミュニケーションをとることができるオンラインサロンも始めました。そこでは、現在40組ほどの親子のみなさんが、オンライン上の子育てコミュニティとして、園だよりを配信したり、育児相談をし合ったり、月に1度実際に会って交流を深めたり、といった動きをしています。

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会社とは別で「asobi基地」という活動もやっています。「asobi基地」では子育てカウンセラー、こども精神科医、小児科医、弁護士など、専門家の力も借りながら、ゆるやかな子育てコミュニティを作っています。遊びを切り口に参加者同士が交流し、繋がる場です。社会全体をフィールドにして、ハードを持たずに、子どもたちを育て合うことができるんじゃないかなという発想でやっています。

子育て世代へのアプローチ

小笠原さん:私たちが運営する場に参加する親御さんたちは、最初は「子どものために良い機会を持ちたい」という理由でやってきます。しかしイベントの終盤には、大人同士でコミュニケーションできたことがとても良かった、と話します。

子どもたちは自分たちで勝手に世界に出会い、繋がっていく力をもっています。はじめての子たちも一緒に遊べるし、自分たちで友だちになる力もある。そんな子どもたちが真ん中にいることで、いろいろな大人が繋がっていくんですよね。子どもの力を借りて大人を繋いでいくような仕組を作れると、子育てコミュニティはいろいろな方向へ広がる可能性があると感じています。

子育てコミュニティを築いていく際、ママ同士が母親としてでなく、一人の人として繋がりを持てることは重要なポイントです。「おやこ保育園」では「親友みたいな存在が、子どもを持ってからできるとは思わなかった」という声を多く聞きます。ママたちが繋がり合う仕掛けをつくっていけば、彼女たちが勝手に結束を深めて、色々なことをやっていってくれます。

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活動を継続していける仕組づくりも重要です。イベント1回きりで人が勝手に繋がっていくことはないです。繋がり続けてコミュニティを築いていって、少しずつ参加者の心の扉を開けていくことがすごく大事です。

色々な方の力を借りて今の活動が実現しています。どうファシリテーションするか、どう親に寄り添うか、子どもの力をどのように引き出していくか……そうしたことは全て、保育士の日常に転がっていたことです。保育士としての経験を、別の形に変換している私たちの姿を通じて、保育士の専門性を世の中に伝える場でもあると思ってやっています。

質疑応答

Q:私たちがコミュニティカフェを企画する マンションには、高齢者の方々が多くいらっしゃいます。高齢者と子どもの関わりについて、どうお考えですか。

小笠原さん:高齢者が多い団地でasobi基地の企画をやらせていただいたことがあります。子どもと高齢者が一緒に折り紙で紙飛行機などを作っていきました。高齢者のみなさんは本当に多くのことを子どもたちに教えてくれます。子どもたちの楽しみ方はぞれぞれですが、どんな経験も子どもたちの実になっていきます。

お年寄りとの関わりに限らず、どんな出会いも子どもたちの成長に繋がっていくので、いろいろな機会を散りばめておいてあげたら良いと思います。

私が保育士をしていて痛感したのは、私たちが子どもに教えることってほとんど何もないということ。彼らが自ら学びを得るためのきっかけを作ってあげることしかできません。そのきっかけを生む種まきは、私たち大人にしかできない。そういう意識を持って活動していけると素晴らしいですね。

小笠原さんに質問U26メンバー

小笠原さんに質問U26メンバー

ご自身の活動を通じて、子育て世代を含むコミュニティづくりについて貴重なお話をしてくださった小笠原舞さん。これからマンションにおけるコミュニティを考えていくU26に、新たな視点をいくつも与えてくださいました。今回の学びは、コミュニティカフェの企画にどのようにいきていくのでしょうか。乞うご期待ください。

講演後にメンバーとディスカッションする小笠原さん

講演後にメンバーとディスカッションする小笠原さん