机やセカンドライフをコンセプトにしたコミュニティカフェたちーーU26コミュニティカフェプランの提案(後半)


三井不動産レジデンシャルのCSV活動の一環としてスタートした「U26」プロジェクト。26歳以下の世代が、マンションにおいて将来の日本の社会課題を解決するソリューションとなるコミュニティをつくりだしていくことを目的に活動しています。

2016年の春から、マンションにおけるコミュニティカフェの実現に向けて活動を続けてきたU26のメンバーたちは、12月18日にパークシティ溝の口の居住者の方々に向けて、コミュニティカフェのプランを発表しました。

この日に向けて、アイデアソンや各U26メンバーの考えたプランの発表等を経て、メンバーたちは4つのグループに分かれてコミュニティカフェのプランを練ってきました。今回は、提案されたコミュニティカフェのアイデアたちを紹介していきます。

前編はこちらから

机を媒介に人々がつながる「つくえ」

後藤あゆみさんのグループが発表したのは、「つくえ」をコンセプトにしたプラン。多くの家庭に置かれており、誰しもが使ったことがある机。ただ、人によってはなかなか自宅で机を自由に使うことができなかったりすることもあります。

「別の場所に使える机があれば…」そんな後藤さんの思いから生まれたのが今回のプランでした。居住者が自由に使用できるみんなの机を用意し、使ってもらう。そんな空間を作るプロセスも含めて「つくえ」と表現しているそうです。

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後藤さん「つくえは、『日常の延長線上の交差』をコンセプトにしています。普段、人々が行っていることを重なるようにすることで、無理のない交流のきっかけを作りたいと考えています。何かが起こってもいいし、起こらなくてもいい。とにかく、小さな奇跡が起きると信じて、空間を作りたい」

「つくえ」はB棟集会室にある机に加えて、椅子とWi-Fiを用意することでスタートが可能です。スタート後、利用者の意見を取り入れながら要素を付け足していく予定なんだとか。「つくえ」を訪れたお客さんは、普段、自宅や学校、オフィスのつくえでやっていることはすべてできるようになるそうです。

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後藤さん「ターゲットは、最終的には居住者の方全員を目指しますが、まずは心地よく作業したい個人をターゲットにします。「つくえ」という場所で友達が出来たり、お客さんが増えていって、地域全体に輪が広がっていけばいいなと思います」

後藤さんのアイデアでは、「つくえ」には様々な机があるといいます。居住者の手作りによる机や、居住者が思い思いのストーリーを落書きした机、いくつもの机がつながって集会室から庭につなげられるようなムカデ机など様々。

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「つくえ」の様子を上から撮影して、どんな人が机を使っていたのかを記録して共有したり、引き出しをたくさん備えた机を用意し、訪れた人に自由に使ってもらえるようにするなど、色んな机の可能性を紹介していました。

では、そんな魅力的な空間に、どうやって足を運んでもらうのでしょうか。

後藤さん「私が初めてパークシティ溝の口を訪れたとき、緑が多くて素敵な場所だな、という印象を持ちました。「つくえ」を作ろうとしているB棟集会室は、緑が多く光の当たる明るい場所です。この場所なら、自宅で作業するよりも気分よく作業ができるはず。また、机の壁紙を作るというアイデアもあります。自分の家の写真を貼っていく、机にはいろんな使い方があるんだなと、共有するための仕組みを用意して、楽しいと思える空間をつくります」

その他、後藤さんは様々なイベントのアイデアを発表。朝からコーヒーを提供して、足を運ぶきかっけにしたり、パークシティ溝の口で活動する「お話の森」というサークルと共に読書会や読み聞かせ会を開催したり。「つくえ」を訪れる人々が得意なことや好きなこと、学びたいことを書く「利用者カード」を用意し’て、会話のきっかけにするアイデアも。

また、U-Schoolでも話を聞いた「まちライブラリー」のような仕組みを取り入れることを提案していました。

「つくえ」を訪れた人々には、どのような変化が起きるのでしょうか。

後藤さん「日常生活が延長し、互いの日常が交差するような場所を作りたいと思っています。顔見知りができ、挨拶ができるようになって、仲間が見つかる。それによって一体感が生まれ、自分の家以外にも場所が生まれるかもしれないし、生まれないかもしれない。偶然に左右される部分もありますが、こうしたつながりが長い目では防災や防犯につながっていくのだと思います」

後藤さんのプランでは「つくえ」の実現に向けて、まずはワークショップを開催する予定。居住者が手作りで机を作っていくことを通じて、場所に愛着がわくようになり、カフェつく会議のメンバー以外にもファンが増えていくことを想定しています。

運営体制はボランティアが中心。ボランティアには、受付や掃除、利用者同士をつなぐという役割があります。必要な人数は1人で、難しい作業はありません。ボランティアに協力してもらうことで、常に人がいる状態を作り出し、安心感を生み、ドアや窓をずっと解放していられる状態を作ります。

この場合、どうやってボランティアをやりたいと思ってもらえるかが重要ですが、後藤さんは運営に人を配置しないアイデアも発表。ドアをオートロックとし、カードキーや暗証番号などで入室可能にし、防犯性も高い状態に。ただ一方で、全部閉めてしまうので、入りづらくなってしまうなどの課題もあるようです。

収支はコーヒー代等で賄うことを考えつつ、全体的に収支は考えないことにしたい(プラスマイナスゼロにしたい)、と後藤さんは考えます。

後藤さん「収支をまったく考えないことで、自由に運営することができます。かかるのは、初期投資の机代などですが、これは屋台のようにワークショップで作れるのではないか、と考えています。その他の備品等も、お金を使わずに寄付で賄うことでお金をできるだけかけずに実現できたらと考えています」

「つくえ」へのフィードバック

後藤さんからの発表が終わった後は、オブザーバーの方々からのフィードバックの時間に。

林さん「触れ合いたい、人と関わることが苦手な人でも行ける空間となっているのがいいと思います。運営上、スタッフがいなくても価値が出せる可能性もある。さらに、カフェとしての価値やイベントの開催など、価値を重ねていける。アイデアの方向性は素晴らしいと思います。

現実的には集会室のひとつを使いますが、本当はいろんな場所にいろんなバリエーションで広げていくことができそうです。パークシティ溝の口には、色々使いみちがありそうな空間もありますしね」

影山さん「自分もカフェをやっている立場から考えると、「カフェとは机である」という視点は本質をついていると思いました。一方で、はっきりとニーズがある人ほど、消費者的になるのではないでしょうか。長く自分の都合に合わせて使いたいと考える。それは、この机から「もっと面白いことが始まったらいいのに」という狙いと相反するのではないかなと。利用者同士の利害関係をどう調整するのでしょうか?」

後藤さん「ニーズの違いもあるかと考えられますが、最初にルールを作ってしまうと、場が規定されてしまいます。まず、最初はやってみることが大事かなと思っています。問題が出てきたら工夫して、対応していけたらと」

後藤さんの回答に対して、影山さんからは「利用者にも運営側に関わってもらうといいかもしれない」「林さんのアイデアのようにパークシティ溝の口の中でいくつかの箇所に場所ができていれば、使い分けはできる」といったアドバイスも送られました。

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「なんでB棟の集会室を利用するの?」といった質問に対しては、「和室ではないから」という回答をし、「運営はボランティアなのに有給なの?」という回答に対しては、「朝にコーヒーを提供する時間はボランティアでは辛いと思うので、有給にしています」と回答していました。

カフェへのユニークな視点を持った「つくえ」の発表は、オブザーバーにも居住者の方々にも違った印象を与えることができた様子でした。

生きがいを生み出す「旅する喫茶店」

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最後に発表したのは、島村浩太さんのグループ。島村さんのグループが設定したコンセプトは、「第二の人生を充実させるカフェ」というものでした。

島村さん「私たちは、高齢者の方々がコミュニティ活動に参加することに抵抗があることに着目しました。特に男性の高齢者の方は、定年するまでは会社員としてバリバリ働き、退職後は昔の仲間と疎遠に。新しく趣味を作りたいけれど、きっかけがない。

漠然とした将来の不安を抱えているという人をペルソナとして想定しています。私たちはこうした方々が抱えているニーズを「生きがいがほしい」というものだと考えました。定年してあらゆるものから開放されてしまった人々の、第二の人生を充実させるカフェを作りたいと思います」

続いて、同じグループの向山さんが紹介したのは、「人生の充実とは何か」についての仮説でした。

向山さん「人生の充実はどういうことでしょうか?調べたところによると、健康や旅行、ボランティアを生きがいとする方々が多いようでした。であれば、第二の人生を充実させるためには、旅行やセカンドキャリア、健康といったきっかけを提供する必要があると私たちは考えました」

プランでは、旅行「みぞのくちこみ」地域の情報を収集するアンケートを配布。アンケートに答えてくれた人にはコーヒーをプレゼント。カフェを常設できるようになれば、アンケートを張り出して「みぞの掲示板」コーナーを設けることを想定。

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また、行本や旅行雑誌をテーマにした「感想文庫」という企画も。行ってみたいと思う場所を付箋に書いて貼っていくと、口コミがつながっていく。本を介してだったら、コミュニケーションもとりやすいはず、というのが彼らの考えです。

自分たちの語りたいことを語る「語り大会」や、自主企画の「旅行イベント」を開催するなど、様々なコンテンツを想定しているそうです。

セカンドキャリアについては、「お助け隊が行く」という企画を想定。エントランスで出張喫茶店を設け、5分であればすぐ対応できるようなシニアの困り事を解決するサービスの提供を考えているそうです。これを育てていき、カフェができる頃にはお助け隊を立ち上げていくことが彼らのプラン。カフェにできることを登録しておくと、居住者の困りごととマッチングしてくれるというもの。

彼らのグループではカフェが常設されたら設備も用意し、健康をテーマにした活動を行っていくことを予定しています。居住者の方々は自分の健康状態を測りに来ることができ、溝の口健康手帳という健康状態を記録するためのツールを使って、自分の状態を比較可能にすることで、健康管理のサポートと地域センターと情報を共有していきます。

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向山さん「カフェを作るのは、人通りが多く、買い物帰りに立ち寄りやすいB棟集会室を想定しています。居住者の方々が新聞を取りにエントランスに来たついでに、挨拶ができるように。挨拶のきっかけを生み出すために、常設が始まった後も仮設をパークシティ溝の口内のあちこちでどんどんやってもらいたいと考えています」

メニューとして想定しているのは、人々の興味をひくための様々なメニュー。世界各地の飲み物やスイーツを週替りや月替りで提供していきたいと考えているそうです。収支計画は、一人当たりのカフェ利用料が380円、1ヶ月あたりの利益が2600円、年間で利益が3万円となる見込み。

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運営体制は、カフェつく会議の運営メンバーがお助け隊のマッチングやイベント企画を実施。健康手帳による情報を周囲のケアセンターと共有していくなど、プロを活動の中に入れていく計画を立てています。

「旅する喫茶店」へのフィードバック

発表後は、オブザーバーの方々からのフィードバックの時間に。

林さん「ポジティブな見方をするなら、カフェに血圧計を置くのはアリだと思います。みんなでシェアするとかね。1人で所持するものじゃないけど、シェアして持てたらいいよねってものを集めていく空間の作り方はうまくいきそうですね。ただ「旅する」というコンセプトとの関係が気になりました」

影山さん「潜在層をキーワードにしていたと思いますが、これは大事な指摘です。潜在層が圧倒的に多い人たちであることを認識しており、一言に潜在層と言ってもグラデーションがあることも指摘している。その中でも、関わる余地のある人たちからアプローチしていこうという提案だったと思います。

想定していた「イベントに参加することに抵抗がある、旅行にみんなで行くなんて無理」といったターゲットの人たち向けの提案になっていないのでは?と感じました。また、ご高齢の方以外の人々にどう広げていくのかについてもお聞きできればと思います」

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影山さんの質問に対して「アンケートなどの取り組みやすいものからスタートし、掲示板など次のステップにつなげ、イベントに参加してもらうと少しずつステップアップしていくことを想定しています。御用聞きの中でも、保育園で保母さんをしていた人たちによる互助の仕組みなどを構築し、高齢者の方々以外にも広げていきたいと考えてます」と回答。

居住者の方々からは「お助け隊は作らなくちゃいけないと話をしているので驚いた」「サラリーマンで転勤族が多いから、各地方のエピソードは盛り上がるのでは」といったフィードバックが投げかけられていました。

カフェつく会議賞を2グループが受賞!

4つの発表が終わり、投票によって最優秀賞とオブザーバー賞の3賞が決定しました。なんと、影山 知明賞、林厚見賞ともに「つくえ」が受賞!

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そして、最優秀賞となるカフェつく会議賞は「ひだまめカフェ」と「旅する喫茶店」が受賞するという、予想外の結果となりました。

受賞したひだまめカフェと旅する喫茶店に対して、パークシティ溝の口の居住者を代表して山本さんと桜井さんからそれぞれコメントがありました。

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山本さん「どれも良いプランばかりで、議論はとても盛り上がりました。パークシティは、年齢層が高いマンションですが、近年世代交代が始まっています。少しずつ、若返り始めているため、多世代に受け入れられるカフェであるかどうかを一番のポイントにしたいと思っていました。食を中心としたひだまめは、自治会公認サークルなどと連携しやすく、子育て世代も関わりやすいので、ハブになりやすい。こうした観点から「ひだまめカフェ」をカフェつく会議賞に選びました」

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桜井さん「審査は他のプランとの接戦でした。一番すぐに始められそうなプランということで、旅する喫茶店を賞に選びました。設定されたターゲット層が狭いという点は気になりましたが、ターゲットをどう広げるのかについては今後の発展を期待したいと思います」

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発表会に参加した居住者の方々からは「どのプランもよかった」「各プランの良いポイントを組み合わせたらもっとよいプランになるのでは」といった感想が共有されるほど、接戦となったようです。

いよいよ、U26メンバーによるコミュニティカフェ提案は大詰めを迎えていきます。最終的な提案まであとわずか。残りの活動の様子も引き続きお伝えしていきます。

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