今回のU-Schoolは、U26プロジェクトのオブザーバーでもある、株式会社スピーク共同代表の林厚見さんをお招きし、空間と仕組みのデザインで社会課題と事業課題を解決していけるのか、お話を伺いました。
リノベーションは民主的なアプローチ
日本においては「リノベーション」という言葉の捉え方が変わってきたなと感じています。もともと、「リノベーション」とは商売でもなく、価値創造のスキームとして、事業モデルとして認められるようになってきました。ここ2、3年はまちづくりとリノベーションが接近して、中心市街地や商店街が危機だ、というときにリノベーションがソリューションとして挙がってくるようになりました。
リノベーションをソリューションとするのは、あるときは正しい一方で、捉え方を誤ると失敗してしまうこともあります。
リノベーションというのは民主的で、大きい投資や大量消費とか真逆の方法論です。中心市街地再生においては公共事業で大きい箱をつくるのに失敗してきた歴史の中で、むしろ草の根的にそれぞれの小商いが盛り上げていく方が良いんじゃないか、という仮説が生まれています。
そして、小商いには一定の成果があります。とはいえ、中心市街地や商店街の危機は問題が大きすぎるので短期的に全てを解決できるわけではありません。それでも、幸せなひとつのアプローチとして増えてきています。
今の時代にフィットする「リノベーション」
今は、縮小社会の中、低投資高感度であることの方が現実的に機能していく時代。この時代において、リノベーションがフィットしてきている。
一方で、リノベーションは普遍的なところもある。日本では戦後に見られなくなりましたが、ヨーロッパの美術館に見られるように、古いものと新しいもののハードが共存しているのは世界では普通にあることです。
10年ほど前は「リノベーション」というと主に外見や内装のデザインの話をしていました。今の時代のリノベーションは、元の物件が持つ良さを生かして、どんなアクティビティやソフトを作っていくかが重要です。リノベーションを企画する立場にある人々がこの変化に気づき、「どんな人が、どう物件を使うのか」が議論されるようになってきています。
「リノベーション」という言葉が普及してきたのと同時に、「リノベーションすればあらゆる問題が解決する」という幻想を抱かれてしまうことも増えてきました。「リノベーション」とは価値観やマインドセットであって、よくある「リノベ○○」といった商業施設などの絵に惑わされず、精神性があってこそなのだ、ということを強調させてください。
資産価値を最大化させる
賃貸物件をリノベーションすることになったら、資産価値を最大化させることが一番の使命になります。リノベーションはただの手直しではありません。誰がどう住むのかというターゲティング、使われる目的やポジションを考えて、ストーリーをつくり、人と風景をイメージしながら具体的に専有部、共有部のアイディアを具体的に考えていくわけです。
その中で最も資産価値が高くなる方法について戦略を立て、物件の見せ方を編集していきます。ロジカルであり、同時に非ロジカルなことを反復横跳び的に右脳と左脳を使ってやっていきます。
そもそも不動産の価値は、ほとんど「立地」「規模」「築年数」というベースの価値で決まっています。そこに「設備」「仕様」といったスペックのバリュー、サポートの内容、共用の施設はどうなっているか、コミュニティとしてどんな関係性の価値があるのか、デザインとしての価値、ブランドとしての価値などが加わります。さらに金融や流通に関することが上に乗っていく。リノベーションを仕事にするならば、これを全部理解して、最適に組み合わせることができなければなりません。
分譲マンションの共用部について言えば、「資産価値の維持・向上」そして「生活価値の向上」の2点が重要になります。まず、良いマンションと評価され、高い金額がつくようにすること、そして居住者の求める日常の幸福や安心を向上させる。この2つのロジックでリノベーションを進めていくわけです。
ただ、「生活価値」については、まだお金の伴うところで評価されるところまで至っていないのが現状です。この現状をどうしていくのかがU26のプログラムで問われているところ。単に理想の場所を考えるだけでなく、経済合理性を伴う納得感のあるアイディアにしていかなくてはいけません。マンションを面白く変えていくための現実的なアイディアに戦略を持ってほしいと期待しています。
見た目ではなく、アフォーダンスをつくれるか
リノベーションにおけるデザインでは「アフォーダンス」が重要になってきます。「アフォーダンス」とは「自然とそうなってしまう状況や環境」のこと。例えば、二本の分かれ道で片方は樹木があって楽しげ、もう片方はコンクリート張りで無味乾燥、という状況の時に、人は大体樹木が茂っている方へ進みますよね。
イタリアのシエナの広場もよく参照される例になりますが、このように多くの人が思い思いの時間を過ごしています。一方で都庁の広場も同じようなつくりになっていますが、こちらは全然人がいないんですね。実はシエナの広場はゆるやかな勾配になっていて、人がそこに沿って座りやすいようになっているんです。広場に対する建物の高さの比率が良いとか、さまざまな条件で、アフォーダンスがつくられていきます。パリのポンピドゥー・センターの広場においても、アフォーダンスが考慮されて設計されています。
「ここに飲食している人がいて、ときどきイベントが行われて…」と理想だけ描いてもだめで、そうなるようなアフォーダンスを作る。アフォーダンスがわかっている人が作らないとそうならないわけです。
では、どうすればアフォーダンスがわかるのか。これは、遊んだ者勝ちです。色々な場面を経験して、アフォーダンスを注意深く見ている人。人を集めることをしたい場合は、人を集める幹事を100回以上経験してわかるようになる。経験値と好奇心次第です。理想を実現するためにはどのようなアフォーダンスを想定して、どのような戦略を立てれば良いかを見出す。その訓練を今のうちに積むと良いと思います。
成り立たないものを成り立たせること
コミュニティカフェを企画していくにあたっては、目的を明確にすることが重要になってきます。高齢者の孤独死問題を解決することがミッションなのか、それとも仲間同士で地域に開いた関係性づくりをやっていきたいのか。事業として成立させていくことが本当に必要なのか。なんとなく「いい風景」を追って終わらないように戦略をきちんと練ってみてください。
「あったらいいな」「○○が欲しい」というのは大切な動機です。しかし街行く人に何が欲しいか聞いてカフェと本屋」と回答されたところで実際にそれが機能するかは別問題です。「これが本当に欲しかった!」というものが喜ばれます。そこからさらに「つい行ってしまう」という状態に誘導していけるかどうかにかかっています。人を誘導する仕掛けを裏に作れるよう、頑張ってください。
質疑応答の時間
Q:アフォーダンスを考えるのに経験と知識どちらが大事になってくるでしょうか。
林さん:ボキャブラリーや持ち札、アイディアは沢山会ったほうが良い。たくさん持っている状態で現場を見にいけば更に高度なアイディアも考えられます。どれくらいお金がかかるか、などリアルなことも考えられるので両方あったほうがよいですね。妄想する力、アイディアの札を持っておくことも大事だし、実現するためのロジックも大事です。
Q:賃貸のほうが分譲よりもリノベーションすることが難しいという話でしたが、何かアドバイスありませんか。
林さん:僕らは現状復帰する約束をしつつ、良い面は残すという契約をして進めます。特殊なマーケットなので、自分たちはトラブルになることはありません。「楽しいことに人は乗る」、これは論理を越えますね。高架下の例も、弊害は多いが社内で乗る人間がいて進みました。マンションだと若者だけでなく60歳以上の方々の生活の実態を握ったうえで進めることが重要なのではないでしょうか。
東京R不動産をはじめとする取り組みの経験から、U26メンバーにリノベーションのキモや、不動産をめぐる企画の考え方を教えてくださった林さん。今年度のU26プロジェクトのアドバイザーでもある林さんは、今後の企画のフィードバックにも参加してくださいます。
具体的に企画が進行していくなかで、U26メンバーと林さんのあいだでどのようなやり取りが交わされるのでしょうか。今後のU26メンバーの活動にも乞うご期待ください。